top of page

​第二章 突然の不幸③

   2025年1月1日 朝7時 曇天 豊臣家の元旦

例年ならば門松やお正月飾りで華やかな玄関も今年は寂しげで寒々しかった・・・。

久しぶりの自宅での正月。今年はハワイどころか、おせち料理も無い・・・。

美智子は髪を振り乱してカップそばをズルズルと食べていた。

目にはクマをつくり、遠くを見つめて、生気を感じらえれない。すると起きて来たあゆみが

「ママ!明けましておめでとう!元気出して!ママがしっかりしないとパパだって立ち直れないでしょ!

しっかりして!これから豊臣家の復活のために闘いが始まるのよ!ママ!聞いてる!」。

「聞いてるわよ・・・パパの復活は難しいとお医者さんが言ってたし・・・この先どうしたら良いのか

想像もつかないのよ・・・。」と美智子。「どうするかは私に任せて!ママは私についてきて!心配ない!

きっとパパは社会復帰出来る!いや!私が社会復帰さしたる!だからママもしっかり前を見て!

そして前みたいに魅力的なママに戻って!お願い!」。「そんなこと言ったって現実は・・・

どうしようもない・・・」と美智子。

「いい加減にして!ママ!私を信じて!」とあゆみ。あゆみは大晦日の夜の不思議な出来事を話す事は

なぜかできなかった。そこに仏壇に手を合わせていた、ともみが二人がいるリビングにやって来た。

「おやおや正月早々、親子喧嘩ばしよっとね?美智子さん・・・浩吉はいい加減な男ばってん、

きっとあゆちゃんや美智子さんが幸せに、ずっと暮らせる様、強く願っとると思うけん、きっと復活ばしよるよ!

心配せんでよか!それに今日は浩一郎も来るしクヨクヨしとってもしかたんなかやんね!

みんなで乗り切るばい!」と、ともみが檄を飛ばした。

ばあちゃんが久しぶりに雑煮ば作っちゃろう!」と。するとあゆみが、

すかさず「やったあ!ばあちゃんの雑煮最高! ママは冷凍庫から

タラバガニ!タラバガニ! 浩一郎兄さん来たら

豊臣家の決起集会開催!開催!」 美智子にも少し笑顔が戻っていた。

 午後1時 浩一郎(浩吉前妻の息子)・東京より到着。

「お久しぶりです。美智子さん大変だったでしょう?こんな時期に倒れるなんてごめんなさい。

父もきっと家族に謝っていると思います。代わりに私が謝ります・・・申し訳ない・・・」

浩一郎の目から涙があふれていた。するとあゆみが「兄さん何堅いこと言ってるのよ~みんな家族じゃない!

今日はこれから豊臣家の決起集会!パパにはまだまだ頑張ってもらわないと。みんなで社会復帰させよう!」。

浩一郎が「あゆちゃんはいつも家族を明るく前向きに導いてくれる太陽みたいな子だね。僕も見習わないとだね。」

「さぁさぁ正月早々ジメジメはなし。上がって上がって!決起集会やろう!その後パパのお見舞い!

みんな元気に明るい笑顔見せにに行こう。」とあゆみ。そしてリビングに笑顔が戻っていた。

午後3時 浩一郎とあゆみ・倉庫へ・・・。

「浩一郎兄さんちょっと来てくれる!」とあゆみが倉庫から呼ぶ。

するとゆっくり浩一郎が倉庫へ。そしてあゆみは大晦日の夜“アノヨン”から言われた通り

トランクをどけて水をかける。すると四角の枠が浮かび上がる。あゆみは思いっきりその中心を押した。

するとゆっくり金庫が現れた。半信半疑だったが、あゆみは昨日のことが本当だとこの時点で確信した。

そして後ろから見ていた浩一郎は驚くことなくその作業を静観していた。あゆみは浩一郎兄さんもこの事を、

ひょっとして知っているのかも?と思った。・・・一瞬あゆみの脳裏に昨日の

“アノヨン”の事を話そうかと思ったが、話さず自然の流れに任せることにした。

すると浩一郎が「これが父さんの言ってた隠し金庫なのか?でもなぜあゆみちゃんが・・・」

と不思議に思った。しかしあゆみは、暗証番号!次にロケットの鍵と初めてなら手が震える所だが

あゆみは不思議と淡々とこなしていく・・・。そして遂に重い金庫の扉が開いた・・・。

そしてそこにはアノヨンが言った通り金の延べ棒が!「何これ!こんなに!」と浩一郎は驚きを隠せない。

そして恐る恐る金の延べ棒を数えてみる・・・10キロの延べ棒が確かに16本。アノヨンの言う通りだった。

「浩一郎兄さんこの金庫の存在知っていたの?」とあゆみ。

「あっ、ああ・・・それが父さんが倒れる3日前に父さんから聞いて・・・

“詳しいことは年が明けてからゆっくり話そう”って・・・

それと石田成三商店のことも会う度に・・・“もし父さんに何かあったら石田社長に

何でも相談する様に”って。今考えると不思議だけどね。」と浩一郎。

「だけど父さんは“まだ誰にも言ってない”って言ってたけどあゆちゃんが知ってて本当に良かった。だって場所も

開け方も全く聞いてなかったから・・・父さんも何かを感じてあゆちゃんに託したのかな・・・」と浩一郎。

それでもあゆみは昨夜のアノヨンの事は言い出せなかった・・・。

「浩一郎兄さん!これからが大変なのよ!実はここだけの話パパは国税に目をつけられてるらしいのよ!」と

とても18才になったばかりの発言とは思われない堂々とした態度で浩一郎に言い放った。すると浩一郎が

「なんだって・・・てっ!ことは脱税?父さんには“バブル癖は直してどんぶり勘定はいい加減止めなよ!”って

会う度言ってたのに・・・。何で国税が入る事分かったの?しかもあゆちゃんが?」。

「そんなことより豊臣家を守るべくこれからは私の話を聞いて兄さん!」と相変わらず堂々とした態度。

「あ、はい。」と浩一郎。

「まずこの金の延べ棒!全部現金に換えなきゃ!その為には石田社長にこの全ての延べ棒を渡して換えてもらう。

だから浩一郎兄さんはこの金を4回に分けて東京の石田社長に届ける。本当は1回でお願いしたいけど全部で

160キロあるから1回じゃ無理・・・兄さんひとりで4回くらいに分けて40キロずつ!頑張って!」とあゆみ。

すると浩一郎が不可解な面持ちで「あゆちゃん・・・ちょっと待って話をしていたらすべてのシナリオが

分かっているかのように聞こえるのは僕だけかな?」困惑顔の浩一郎。

「とにかく兄さん私を信じて!この件はまた明日話しましょう!さあパパのお見舞い!お見舞い!」とあゆみ。

正直あゆみも今日の夜アノヨンの指示がなければ先に進まないのであった。

 

午後4時 筑豊大学病院 浩吉の病室(特別個室)にて

「パパ!しっかりしてよ!あゆが絶対に治すから!」と

浩吉の病室に入るなり大きな声であゆみは言った!

「浩吉!まだまだあんたは、やらんといかんこつが、がばいあるとばい!

あゆちゃんのいうごつ、しっかりせんと!第一わたしば送ってもおらんとに・・・がんばんしゃい!浩吉!」と、ともみ。

 そして久しぶりに派手な服装にお気に入りのハイヒールを履いた美智子が「パパ!元気になってまた

“中の上の生活”をしよう!」と。そして最後に、

浩吉に似て涙もろい浩一郎が目頭を押さえながら「まだまだ父さんには教えてもらいたい事や

連れて行ってもらいたい所がたくさんある・・・早く元気になってくれよ・・・」と。

それに対して浩吉はわずかだが笑ってうなずいた様に、 みんなには見えていた。

 

 

午後11時 あゆみの寝室

あゆみは“アノヨン”のことを考えると寝付けなかった。まして夢に出てきたのか?部屋に出てきたのか?

しかし、しばらくするとまるで睡眠薬を飲んだかのように眠りについていた・・・。

「あゆみはん!あゆみはん!ようやったで~」とアノヨンの声がした。あゆみは内心ほっとした。そしてあゆみが

「金の延べ棒確認したわ・・・これからどうすれば良いの?」。するとアノヨンが「現金に換えるのはちと難儀やけど

石田はんに任せたら大丈夫!全てうまくいく・・・石田はんは浩吉はんの右腕さかい!カネの振り分けは

こうや。国税に現金約1億とデカイくて見栄えのする指輪5~6本を持たせるで!石田はんにはお礼として1億や。

ええか~。それと石田はんはわかっとると思うが国税に渡す1億近い金はすべてピン札じゃないお札で

百万単位で輪ゴムでくくるようにお願いするんや!ええか~」。あゆみが「私は浩一郎兄さんに伝えて

動いてもらったらいいのね・・・」。「そうや!この件は浩一郎はんと石田はんに任せたらええからな」とアノヨン。

「今日はここまででええか~。わては長いことおられへんねん・・・あゆみはん!頼んだで~」と

消え入るような声で言い残し、間もなくアノヨンの気配がなくなっていた・・・。

bottom of page