
第四章 未来に向けて③
小鳥のさえずり・・・暖かい陽射し・・・。春の足音が聞こえ始めていた。
美智子は毎日浩吉の病院へ。あゆみは卒業式が間近、医者に成ることで頭がいっぱいだった。
一方、東京の浩一郎は最後の金塊を現金に換え終わっていた。すでに国税用に1億2,000万(宝石を含む)・・・
石田商店に1億・・・佐々木に8,888万・・・残りは約9億7,000万近く・・・。浩一郎はなるべく関わりたくないお金
忘れたいお金・・・だから浩一郎は石田商店に残りのお金全てを預けていた・・・。
相変わらず夜、就寝前になると欠かさず現れるアノヨン・・・最近現れては「あゆみはん!がんばれや~」
との言葉と共にスーッと消える日が多かったがその日の夜は違っていた。「あゆみはん!いよいよ明日!
国税来よるで!もっと早う教えても良かったんやけど・・・まあ心配しなはんな~仕込みはOKや!
あゆみはんは普通に学校いきなはれ!帰ったら終わっとるで!ただ美智子はんは熱出るかもな~
美智子はんは前もって知らんほうがええんや!リアルさが無かったらアカン!ええな~最近体調悪いんや!
ほな行くで~」とアノヨン。「ちょっとアノヨン!突然過ぎる!本当に大丈夫!ほんとうに!」とあゆみ。
「大丈夫や~心配しなはんな~ほなまた明日~笑って会えるで~」とアノヨンは消えていった・・・。
翌日 昨日の春の陽気から一転朝から土砂降りの雨だった・・・肌寒い。あゆみは平静を装い「ママ!いってきまーす」
そして・・・その時がやって来た。ピンポーンと玄関から3回ほどゆとりの無いインターホンが鳴った・・・。
「は~い!どなた。」とモニターをのぞき込む。何やら複数の人・・・何やら物々しい雰囲気がモニター
越しに伝わってくる・・・。「豊臣さんですね!国税局査察部です!」モニターには捜査令状が・・・ドカドカと
部員達が入ってきた。美智子はまだ化粧も終わっていない・・・寝耳に水とはまさにこのことだ。二階の事務所から
次々と運ばれる書類やはんこそして裏の倉庫へ・・・。まるで分かっていたかのように部員が金庫を発見!
「奥さん解ります?開け方!」と部員が強い口調で言い放った。「私は何も・・・主人は倒れて
入院中です!私は何も知りません!」と美智子は言い返した。あゆみがアノヨンに言われた通り開け方を
書いたメモを潜ませて置いた場所を部員が発見!アノヨンが言った通り事が進む。「出ました!出ました!」
興奮気味に部員が言い放つ。使い古しの札束!デカイ宝石!部員達が集まって来る。
「奥さん!脱税です!全部持ち帰ります!本当は丸一日かかりますが証拠品が出ましたので
早めに引き上げますね!お子さんが帰ってきたらショックでしょうから」少し穏やかな
口調になっていた。札束を丁寧に数える・・・。そして、お昼前にはまたドカドカと帰って行く。
「あっご主人お大事に!」と責任者であろう部員がとってつけたように言い放ち去って行った。
美智子は何がどうなったか理解が出来ないままにただただ茫然と立ちすくんでいた・・・。
すると半ドンだったあゆみが帰って来た。「ママ~ただいま~」と平静を装い、いつものように帰宅。
「あゆちゃん・・・あゆちゃん・・・大変なことに!」と美智子。「何かあったの?まるで強盗にでもあったかの様
な顔して~」とあゆみ。「それがそれに近い事があったのよ!裏の倉庫から何億円も持って行かれたのよ!脱税だって
言われて!」と美智子。「脱税していたらしょうがないわね!パパが悪いのよ!
税金はキチンと払わないと!」と動揺すること無く美智子を諭す。すごいお金が持って
行かれたのに冷静なあゆみに美智子はイラ立ちを隠せない。「パパのことだからチャンとしてるわよ!」とあゆみ。
「なんか根拠でもあるの!これからどうやって生きて行くのよ!
佐々木さんのリハビリ代やこれからの病院代!一体どうすれば良いのか?」と美智子。
「ママ。あゆみは正月、浩一郎兄さんと話し合ったの。金庫のこともパパのどんぶり勘定の事も話し合って
全て浩一郎兄さんに委ねたわ。ママに言わなかったのは心配するから・・・私達に任せて心配いらないから!
佐々木さんのリハビリ代も病院代ももう払ったわ!とにかく心配しないでお願い私と浩一郎兄さんを信じて・・・ママ!」
とあゆみは動揺している美智子に穏やかな口調で話した。「何がどうなっているのかよく分からないけど
浩一郎さんはしっかりしてるから信じるわ!とにかく今日有ったことは忘れたいから・・・」と美智子。
あゆみは美智子が単純で良かった!楽天的で良かった!と改めて思うのであった。