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​第一章 裕福な家庭①

夏休み!

『ただいま~ママ~昨日柏の森のおばさまに頂いたメロン切ってよ~』

 

部活を終えて帰ったあゆみが甘えた声で言った。

 

『いい加減にしなさい!来年から東京で一人暮らしするんだから、そのぐらい自分でしなさい!』

母親の美智子が厳しい口調で言う。

 

『来年からは頼めなくなるから今のうちにたくさん頼むんじぁない~』と切り返してきた。

 

『それよりあゆみちゃん今日パパが出張から早く帰って来たら三太郎寿司に行こうか?』

 

『そんなことよりメロンメロン早く切ってよ~暑くて死にそう!来年あたりニッポン溶けて無くなるかもね~ママ~聞いてる?・・・出張は甲府なんでしょ!おみやげは決まって信玄餅だから御近所の方に差し上げても絶対!飽きてると思うよ。   だって明美も春美も“もういらない!”って言ってたもん!』

『そんなこと言うんじぁありません!パパは忙しくておみやげ選ぶ暇が無いのよ・・。ママはおみやげ買ってくるだけ偉いと思うけど・・・ご近所の方は“いつも美味しくいただいてます”って言ってくれるわよ』

『そんなの社交辞令に決まってるじゃない。そんなことよりメロンメロン!まだ~』

しぶしぶ美智子はメロンを切ってダイニングテーブルに置いた。『やっぱりこれよね!本物の夕張メロンは・・・美味しいから1個いけちゃう~』

 

『パパの分残しなさいよ!半分にしときなさい!』

『ママ~2個頂いたでしょ!1個食べても大丈夫、大丈夫。でもこのメロン絶対高いよね。だっておばさまお金持ちだもの~1個1万円はするよね!いや、絶対もっとするよね。』

 

『まあ~頂いたものに値段つけるなんて品が無い!』

『あら?お母様は育ちがよろしいからね~私はママが道頓堀でやってたお店で大阪のおばちゃんに“これなんぼかわかるか”ってしょっちゅう聞かれて6才まで育ったから“三つ子の魂百まで”って言うじゃない。大阪から飯塚に帰ったとたん“品格や言葉遣いに気をつけなさい”なんて、疲れちゃうのよ・・・』

『品格や言葉づかいはあゆみの将来のこと考えてだから、どんな環境でも恥ずかしくない振る舞いってあるでしょう。そんなことより早く食べてシャワーでも浴びてきなさい!』 

 

『ハイハイ』 

 

『ハイは1回でしょ!』・・・

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