
第四章 未来に向けて①
早朝「ママ~ママ~わたし医者になる!」とあゆみは、まだ寝ている美智子を
起こした。真っ赤なネグリジェの美智子が
「どうしたの?こんな朝早くから・・・まだ5時じゃない!誰が医者だって?」
「わたし!」とあゆみ。「大丈夫?パパが倒れて少しおかしくなった?あなたはわたしとパパの子よ・・・
お医者様は頭が良くないと成れないのよ・・・パパは一応・大学出てるけどあの優秀な東京大学じぁなくただの
東京付近の大学だし・ママはこの辺じゃ有名なヤンキーやってたし遺伝子的に無理があるわ~
頭の良くなる薬あったら私が先に飲みたいわ~」と寝起きのわりにはしっかりと正しいコメント
「私だってわかってる!賢い家庭じゃ無い事くらい!でも鍛えて鍛えて何とかするの!」とあゆみ
「ハイハイ!賢い家庭じゃなくてすいません!
それに頭は筋肉じゃないので鍛えても良くなりませんから~」と美智子。
「とにかく佐々木さんにお願いしてあゆみのすべてを捧げます」とあゆみ。「ちょっと待った~朝早くからなになに!
18の女の子が親の前で男に身を捧げるとは!どういうこと?あゆちゃんやっぱり頭おかしくなっとる!病院行こ!」
と美智子。「ママ!聞いて!私は18年間で初めて目標を見つけたの!今の私じゃ医者に成れると思ってないわ・・・
でも目標に向かって頑張ってみたいのよ!佐々木さんはこれから私の人生の師匠と思って接して行くの。
ママが心配するような次元では無いのよ!」とあゆみ。
「すいませんね!次元が低くて元ヤンキーで!で・どうしたいのよ、あゆちゃんは?」と美智子。
「私の今一番の目標はパパが社会復帰すること。そしてそれと平行して佐々木さんが日々どのようにパパと接し
どのようなリハビリをしているのか知って更に筑豊大学医学部を目指すべく家庭教師として佐々木さんにお願いする!
それが今考えられる全てよ!ママ!私はこの目標に向かって突き進むわ!」とあゆみは
今までとどこか違う輝いたまなざしで母・美智子に決意を伝えた!
その日の朝は寒かったが陽射しは清々しく春の足音が小鳥のさえずりと共に聞こえてくる・・・。
あゆみは父親浩吉にも一刻もはやく決意を伝えたかった。あゆみは美智子を待つこと無く
家を飛び出しチャリに乗り父の病床に向かった。とにかく早く会いたかった!とにかく早く伝えたかった。
あゆみは息を切らしながら父浩吉の病室を開ける!「パパ!わたし医者になるわ!わたし医者になってみせるわ!」
と力強く言い放った。すると「わ・かっ・た・・・わか・った・・・」とうっすら笑いながら浩吉はうなずいた。
「パパ!今話せた?」すると「手も・動かせる・・・」と浩吉は両手をあゆみに差し出していた。
あゆみは手を握りしめ「パパ!がんばって!もっともっとがんばって!
私も医者目指してがんばるから!」とあゆみの目に熱い涙がこみ上げていた。
その時トイレから「おはよう!」と佐々木が出てきた。手にはトイレ掃除用具が・・・。
「佐々木さん!朝からトイレ掃除ですか?」とあゆみ。
「あぁ~トイレ掃除は僕の朝のルーティン。トイレには神様がいるって信じているから・・・」
と佐々木が照れくさそうに話した。佐々木は宮本と交代で浩吉の病室に泊まり込んでいる。
完全24時間体制のリハビリと看護と介護、完璧だった。しかし佐々木には悩みがあった。
理学療法士、作業療法士コンビでいるがどうしても言語聴覚士が必要だと感じていた。
佐々木にはひとつ上の先輩に尊敬する医者武田がいた。武田は言語聴覚士の資格を持っていた。
何度もアプローチしているのだが甲斐大学医学部の教授になった武田に強く言えなかった・・・。
そんな時佐々木のスマホが鳴った。それは武田からだった。「おう!おはよう!元気でやってるか?
来月からおまえのとこで世話になるわ~ええか~。」と武田。それは唐突過ぎる電話だった。
「あっはい!宜しくお願いします・・・」と佐々木。短い電話だった。佐々木にとって跳び上がりたいほど嬉しい
電話だった。するとあゆみが「佐々木さん!悪い知らせ?大丈夫」佐々木が「あゆみちゃん良い知らせ!
最高に良い知らせ!これでパパは大丈夫だよ!」あゆみはよくわからなかったが豊臣家に春の予感を感じていた。