
第五章 絆 ②
7月早朝!梅雨明け!快晴!いよいよ別府・花の井ホテルへ出発!浩吉はリクライニング式の
車いすのまま福祉車両(YORISOI)に乗り込む.更にはドクターPOSTのメンバーに美智子・あゆみ・
そしてスーパーばあちゃんのともみも乗り込んだ。介護福祉士の山本看助。総勢8名。「それでは出発~」とあゆみの
かけ声と共に走り出した。初めての利用なのでとりあえず一泊の予定である。東九州自動車道を通るルート。
筑豊大学病院から2時間半も有れば別府に到着する。爽快な景色を横目に見ながらこれまでのいきさつや浩吉の回復力!
完璧なリハビリスタッフ!豊臣家はまるで何かに守られ、また何かに導かれるように突き進んで行く
勢いがあった。浩吉が倒れたときは絶望の淵に立たされたが、災い転じて福となす!正にこの言葉がピッタリ
当てはまる。特に浩吉はご機嫌だった。“話せない動けない”状態からわずか半年あまりで話せるようになり
杖歩行では有るが出来るようになったのである。努力と忍耐が大嫌いな浩吉が・・・。「今日は羽目をはずすぞ~」と
浩吉は意気込んでいた!と佐々木が「ノンアルでお願いします!」と冷静な口調で諭す。「パパ~まだアルコールは
ダメよ!その分私が飲んであげるから~」とあゆみ。「あゆちゃんもノンアルでお願いします・・・」と佐々木が更に
冷静な口調で諭す。「佐々木さん私もノンアルなの?」と美智子。「御病気じゃないし成人の方ですからアルコール
OKですよ・・・」と佐々木。「じゃ!わしも大丈夫じゃな!若い男に酌してもらうのがわしの夢・・・皆さん飲める
口やろ!ばあちゃんと一緒に盛り上がるばい!」」とともみ。「ええ・・まあ・・・」と
佐々木が消え入る様な声で応えた。「とにかくゆっくり温泉浸かって美味しいもの食べて盛り上がろう!」と
あゆみ。風を切って車は走る!話に夢中になっていると別府湾が眼下に広がる。もうすぐだ。
そして花の井ホテルに到着する。まず浩吉の車いすのリフトが降りる。開口一番「良い空気だ!温泉の硫黄の
香り!いいね~」と浩吉。とにかく花の井ホテルでゆっくり過ごす計画である。チェックインも大幅に早くしてもらい
まだ午前10時である。ホテルはチェックアウトの客で慌ただしかったが専用のコンシェルジュが5人
スマートな動きで出迎えてくれた。「豊臣様ご一行ですね。こちらからどうぞ。」と専用のエレベーターに案内
された。高貴なそれでいて自然な香りがエレベーター内に漂う・・・。部屋に案内される扉も豪華だが部屋の中も生花や
一目で高価とわかる家具や絵画。ドクターPOSTは皆一斉に「うお~」と一言うめき声のような言葉を発した。
「けっこういけてるじゃん!」とまたまたお育ちのわかる美智子のコメント。すると「私が山本さんに花の井ホテルで
1番良い部屋取ってもらうように頼んだのよ~ファインプレイでしょう!」とドヤ顔のあゆみ。
花の井ホテル自慢のスイートルーム・メゾネットタイプ(オーシャンビュー)
“エンペラー”!個室露天風呂付き部屋のすぐ横には24時間エンペラー専用の
コンシェルジュが常駐している。部屋はエレベーター内と同じく高貴でそれでいて自然な
香りが漂っていた。あゆみはデポジット200万円をコンシェルジュに渡し、それぞれの
コンシェルジュにチップを1万ずつ渡す・・・。浩吉はというとまたまた感激でポロポロと泣いていた・・・。
「パパ~また泣いてるの?それより温泉入れてもらったら?」とあゆみ。「私達はメゾネットの上に行きます!」
とあゆみ。すると「わしは下でよかよ・・・いや下に居たかぁ」とともみ。
「ばあちゃんが良くても皆さんが迷惑!私だったらまだね~」と美智子。「ゴチャゴチャ言ってないで上に上がって
温泉温泉!さあ行こう!」豊臣家にとって至福の時間は始まったばかりである。
そんな時・・・部屋に爽やかなチャイムの音が・・・コンシェルジュから「東京からお連れの方がご到着です・・・」